用品を持って独立せよ

 華やかなパーティ会場。文字通りの美酒や豪勢な料理を前にしながらも、新任の安藤部長は素直に堪能できなかった。『大丈夫なのか、本社の方は・・』。一刻も早くパソコンの前に座り調べたかった。。

 軽い小説風の出だしにしてみた。実は、これはホルガなどを扱うメーカーであるエー・パワーの安藤社長の講演の際の話の一部である。

 カメラ博物館のポラロイド展開催に際しての記念講演が22日に行われた。聴衆は50名ほど。講演会にありがちな、うつらうつらする人の姿も無く、出席者は安藤社長の話に対して熱心に聞き入りながらも、ところどころ笑みを浮かべていた。内容的には、安藤社長の前職であるポラロイドでの活躍と、独立後の展開を時系列で話しつつも、ポラロイドフィルムやホルガなどの製品を通してのフィルムカメラへの自身の熱い思いや、今だから話せる的なエピソードを余すところなく語っていた。

 まぁ、細かい内容に関しては、来週号の業界紙で書く事になるが、特に印象的だったのは安藤社長が独立するまでの経緯である。もっとも、このことに関しては、何度となくエーパワー社を訪問し聞いてはいた。要は、デジタル全盛に切り替わる際に、日本ポラロイドも右に倣えと、そちらの方向に舵を切った。その中で、フィルム派の彼は居場所を失ったということだ。だが、さすがにドクターアンドーと後に名乗るだけあって、そのときに、フィルムカメラの可能性やポラロイドフィルムの根強い需要について見抜き、きちんと商売の種を持って独立したのだ。

 white_red110_1.jpg結果、ホルガカメラ(写真)や600フィルム、ブローニーにも対応した小型フィルムスキャナーなど売れ筋商品をつかむとともに、その持ち前のキャラクターから、ドクターアンドーの名を浸透させて、多くの固定ファンを持つまでになっている。

 もちろん、これからも不断の努力が必要だろう。だが、安藤社長が独立を成功させた要因は何だったのだろうか。ここのところ、何週かしつこく書いてしまって申し訳ないが、ランチェスター戦略で考えると充分に納得できる。即ち、フィルムという今や競争相手の少ない部門。さらには、ポラロイドフィルムやトイカメラであるホルガというニッチな部分に特化したがゆえであろう。徹底した局地戦で勝利したのである。

 もちろん、トイカメラやポラロイドフィルム自体は、他社でも扱っているところもある。だが、多くが雑貨ルート中心である。そんな中で、カメラルートに太いパイプを持つドクターアンドーとしては、独自のポジションを確立できたのだろう。安藤社長が、社是としている『時代に逆噴射』が軌道に乗ったのである。

 ちなみに、冒頭書いた小説風の場面の続きとしては、結局その日の破綻は免れたものの、同年10月には米国ポラロイド本社は終末を迎える。その後に、前述のようにフィルム派であるがゆえに、彼は追い詰められ退職。2005年には、エー・パワー設立となる。一度、酒席の際に、つくづく安藤社長に、独立ではなく転職という選択もあったのではないか、と聞いてみると「結局、俺は人に使われるタイプじゃなかったんだよね」と苦笑しながら語ってくれた。

 米国ポラロイドの破綻から続く一連の流れがあるが、いずれにしても安藤社長は独立して活躍する運命だったのかもしれない、と思う。

  トイカメラが用品かどうかという分類はともかく、現に日本写真映像用品工業会に属しているのだから用品をもって独立せよ、なのだ。
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